国際離婚を考えている方へ(注意喚起)

FBIの指名手配リストに日本人女性が?

アメリカのFBI(連邦捜査局)の「指名手配リスト」(https://www.fbi.gov/)に、日本人女性の実名と顔写真が載っているという衝撃的な事実があります。通常、このリストにはテロリストや凶悪犯罪者が掲載されるため、ここに日本人女性の名前が挙がっている、というのは驚いてしまうと思います。

ここに名前が載っている日本人女性は、アメリカ人の夫に無断で子供を日本に連れ帰ったとされ、アメリカ側では「子供の拉致行為」として厳しく扱われ、逮捕状まで出ています。

背景には、日本と海外での親権や面会交流に対する考え方の違いがあります。特にアメリカでは、離婚後も両親が共に親権を持つ「共同親権」が一般的ですが、日本では一方の親に親権を与える「単独親権」が長かった歴史があります。この違いが、国際結婚や離婚の際に親権や子供の引き渡し問題として浮上するケースが増えています。

重大な事件の加害者にならないよう、国際離婚をお考えの方は、是非この記事を一読してみてください。

国際離婚する上で知らないといけない、「ハーグ条約」

国際離婚と子供の連れ去りについて

日本では、母親が子供を連れて「実家に帰らせていただきます!」と、別居することは珍しいことではありません。
しかし、国際結婚している夫婦の片方が、子どもを連れて帰郷する行為は、アメリカなどの国々では「拉致(abduction)」という厳しい言葉が使われるほど、法的に危険な行為です。この「拉致(abduction)」という言葉は、北朝鮮による日本人拉致問題でも使われる言葉で、非常に重大な行為と見なされていることを意味します。

ハーグ条約とは?

「ハーグ条約」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、簡単に説明しておきます。正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」で、1980年にオランダのハーグで採択されました。現在、この条約には101か国が加盟しています。
この条約の目的は、片方の親が16歳未満の子供を無断で他国へ連れて行ってしまうことを防ぐことにあります。もしこうしたことが起きた場合、まず子供を元の居住国に戻し、その国でどちらの親が養育すべきかを裁判で決定する、という国際的なルールです。
実は、日本はこのハーグ条約に加盟していなかった唯一のG8諸国でした。そのため、欧米から加盟を強く求められ、2014年に日本でもこの条約が発効されました。

条約発効後の状況

外務省のデータによると、ハーグ条約発効後、日本には180件の返還援助申請があり、そのうち158件について援助が決定されました。さらに、面会交流の申請は127件で、そのうち109件の援助が決定しています。
一方で、日本から外国への返還援助申請は99件あり、そのうち85件の援助が決定しています。実際に返還が確定・実現したのは32件にとどまり、子供の返還がいかに難しいかがわかります。

子供の引き渡しに関する最近の裁判

2018年3月、アメリカに住む夫が13歳の息子の引き渡しを求めた裁判で、日本の最高裁は、ハーグ条約に基づいた返還命令に従わないことは「違法な拘束」に当たるとの初めての判断を示しました。
また、現在、子供の引き渡しの強制執行について議論が進められています。現行のルールでは、子供と債務者(多くは母親)が一緒にいる場合でないと引き渡しを強制できませんが、両親の板挟みになる子供の負担を軽減するために、一定の条件下で強制執行を可能とする方向で検討が進められています。

増加する国際結婚と離婚、そして子供の連れ去り問題

1970年には年間約5000件だった日本人と外国人の国際結婚は、1980年代後半から急増し、2005年には年間4万件を超えるまでになりました。しかし、国際結婚が増える一方で、離婚も増加しています。1992年には日本国内での日本人と外国人夫婦の離婚は7716件で、全離婚件数の約4.3%でしたが、2010年には約1万8968件と、全体の7.5%を占めるまでになっています。
このように増加する国際結婚の破綻に伴い、子供の連れ去りが問題となっています。日本人の親が無断で外国から子供を日本に連れて帰ったり、逆に外国人の親が日本から子供を国外に連れ去ったりするケースが増えているのです。

アメリカでの訴訟事例

2011年、アメリカのテネシー州で、日本人の元妻が離婚後に子供を無断で日本に連れ帰ったことが問題となり、元夫のアメリカ人男性が損害賠償を求めて訴えました。その結果、元妻は610万ドル(日本円で約6億7800万円)の支払いを命じられました。これは連れ去り行為が深刻な問題として扱われていることを示しています。

また、米連邦捜査局(FBI)の「最重要指名手配犯リスト」には、米国人の夫に無断で子供を日本に連れて帰国した日本人女性の名前が記載されました。このリストには通常、テロリストなどが含まれるため、同じように扱われたことがいかに重大視されているかがわかります。

ハーグ条約締結国では、こうした連れ去りを防ぐために厳しい規制を設けています。そのため、海外で離婚した母親が子供と一緒に帰国しようとしても、出国が許可されないことが発生しています。

日本の単独親権制度と英国の共同親権制度

日本では、原則として単独親権制度が採用されており、犯罪や重大な問題がない限り、親権は母親に与えられることが多いです。しかし、これは片方の親が子供と距離を置かざるを得なくなる状況を生み出しがちです。
一方、英国では離婚後も両親が親権を共有する「共同親権制度」が採用されています。裁判で監護者や面会の条件を細かく決める仕組みがあり、両親のどちらも子供との関わりを保つことができるのが特徴です。

共同親権に関する新民法の概要

日本では、従来の「単独親権制度」に対し、離婚後も父母が共に親権を共有する「共同親権制度」の導入が2026年までに始まる見通しです。これは子供にとって、離婚後も両親が関わりを持ち続け、協力して育てていくための仕組みです。以下に、共同親権を導入する新民法の概要を紹介します。

1. 親の責務に関する新たな規律

新民法では、両親が婚姻中か否かに関わらず、子供に対して果たすべき責務が明確に規定されます。具体的には、以下のような点が新たに定められます。

  • 子供の人格を尊重すること
  • 親権は子供の利益のために行使すること

2. 親権・監護に関する見直し

  • 離婚時の親権者の指定
    離婚時には、父母の協議で父母双方、または一方を親権者に指定できるようになります。協議が整わない場合、裁判所が子供の利益を最優先に考え、父母双方、または一方を親権者と指定します。ただし、子供への虐待やDVなどにより親権の共同行使が困難な場合は、単独親権とすることが求められます。
  • 親権変更時の協議経過の考慮
    親権者の変更を検討する際には、過去の協議の経過も考慮に入れ、不適正な合意がないかを判断基準とします。
  • 婚姻中の親権行使に関する整備
    離婚後だけでなく、婚姻中も両親が親権を共同行使することが基本となります。ただし、DVや虐待の恐れがある場合や、緊急の医療が必要な場合には、一方の親が単独で行使することも可能です。また、日常的な子供の世話に関しては、単独で行えるようにするなど柔軟な運用が図られています。
  • 両親の意見の対立を調整する裁判手続の新設

3. 養育費の履行確保

新制度では、養育費が確実に支払われるように以下の見直しが行われます。

  • 養育費に優先権を付与
    養育費債権には優先権(先取特権)が付与され、裁判所の命令がなくても差押えが可能になります。
  • 法定養育費制度の導入
    養育費に関する取り決めがない場合でも、子供が養育費を請求できる法定制度が導入されます。

4. 安全・安心な親子交流の実現

  • 親子交流の試行的実施
    裁判や調停が始まる前から親子交流を試行的に実施できるよう、交流規律が整備されます。
  • 別居時の親子交流規律
    別居中であっても、子供が両親と交流を持つための規律が整備され、離れていても子供の親子関係が守られます。
  • 祖父母等との交流
    両親以外の親族、例えば祖父母との交流についても、子供の利益を考えた規律が設けられます。

共同親権制度の導入は2026年までに

この共同親権制度の導入は、2026年までに実現される見通しです。これにより、離婚後も両親が協力して子供に関わるための制度が整い、親子関係がより健全に保たれることが期待されています。

弊所の対応

弊所では、戸籍謄本の翻訳や離婚に関する夫婦カウンセリングもおこなっておりますが、国際的な親権トラブルや子供の連れ去り問題には慎重に対応しております。
特に、ハーグ条約に違反する可能性があると判断した案件については、翻訳サービスの提供を行わない方針を徹底しています。
ある日突然加害者になって指名手配…なんてことがないよう、現在、国際結婚をされている方で、離婚についてお悩みの方は、お一人で判断して行動に移す前に、ぜひご相談ください。紛争性がある案件(当事者間で何らかの争いのある案件)については、行政書士が取り扱うことはできないため、ご依頼者の希望を踏まえて提携先弁護士を紹介させていただきます。

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